経営層にこそ読んで欲しい!システム導入や業務改革に抵抗を示す社員との付き合い方
最近「人財」ということばがよく使われます。正式な日本語としての表現は「人材」なのですが、「人財」も掲載している国語辞典もあり、「ヒトは財産」「価値を生む社員」という意味を込めて、「人財」という造語になっているようです。
ただ、「人財」「人材」と表現される人々でも、企業の変革時期や業務改革の場面では、抵抗を示すことがありますし、あからさまな抵抗ではなくても、変化に対して納得しきれない、腹落ちしないと感じる人も多いのではないでしょうか。
業種、業態、歴史、規模、組織構成等、それぞれの企業の背景によって、「社員」の捉え方は様々ですが、どの企業でも起こり得る「業務改革やシステム導入の際に発生する抵抗」への有効な対応策はあるのでしょうか。
このコラムでは、ひとつのケースとして「新業務システムの導入と、それが引き金となって行われる業務改革」についての社員の反応、特に、新システム導入に抵抗しようとする社員や反応さえしない社員への対応について考えてみました。
目次[非表示]
- 1.社員からの抵抗が生まれる場面とは
- 2.抵抗を示す内容にもタイプが存在する
- 2.1.(ア) 従来のやり方を守ろうとする社員
- 2.2.(イ) IT化、システム化にキャッチアップできない社員
- 2.3.(ウ) システム化の効果を信じない/理解しない社員
- 2.4.(エ) システム化に対して過剰な要求をする社員
- 2.5.(オ) 仕事に興味がない社員
- 2.6.(カ) 言われたことはこなすが、熱意のない社員
- 2.7.(キ) とにかく変化が嫌いな社員
- 3.抵抗のタイプ毎の対応策とは
- 3.1.経営層からの強いメッセージ
- 3.2.プロジェクトのサブリーダー(またはメンバー)として指名
- 3.3.課題解決ワークショップの開催
- 3.4.環境から変える
- 4.組織メンバーとの4段階の向き合い方
- 4.1.夢を共有する
- 4.2.目標を共有する
- 4.3.タスクを指示する
- 4.4.仕事の進め方を指示する
- 5.まとめ
社員からの抵抗が生まれる場面とは
社員からの抵抗は、「従来の業務プロセスの変化/変更」をきっかけに発生することが多いのですが、その中でも、BPR がよく例に使われます。
BPRという3文字略語はBusiness Process Re-engineeringの頭文字をとったもので、日本語にすると「業務改革」という意味になります。
業務改革とひと言で言っても、目的や方法は様々で、トップダウンでの「コスト削減」の場合もあれば、現行の業務フローを見直して「新業務フローの作成」を行うボトムアップ型のアプローチもあります。
また、それとは別に、業界や業務の標準的な機能(いわゆるデファクトスタンダード:de facto standard)を備えた業務システムの導入を機に、社内のプロセスを見直す場合もあります。特にERP(Enterprise Resource Planning)と言われる業務システムの導入の場合、BPRは必須とされています。
なぜかというと、ERPを自社のプロセスに合わそうとすると、多大な労力、コスト、時間がかかり、それよりも、多くの企業の知の集積であるERPに自社プロセスを合わせるほうが、合理的で効率的だからです。
また、SaaS形式のシステムも、多くの企業が同一のプラットフォーム上で利用できるように、ベストプラクティスをベースに開発されていますので、ERP同様、合理的で効率的な業務プロセスを提供していると言えます。
ところが、これらの業務改革の際に社員の抵抗が発生する場合があります。
新システムや新業務プロセスの導入には、その「意思決定時」にも、「導入プロジェクト期間中」にも、「導入後の活用期」にも抵抗の発生する可能性があるのです。
抵抗を示す内容にもタイプが存在する
では、どうして、新システム導入時や業務改革時に抵抗する社員が発生するのでしょうか。
ここでは、新システム導入とそれに併せて行われる業務改革を例にして、以下のように、抵抗する社員の主なタイプを分類してみました。
(ア) 従来のやり方を守ろうとする社員
それまでやってきた自分の仕事のやり方や、それによって達成した成果や成功体験に誇りを持つプライドの高い社員は、抵抗を示すタイプになり得ます。
ある意味では貴重な「人財」なのですが、栄光に固執してしまうと周囲からは変革に対する抵抗と見られて、孤立してしまう危険があります。また、年配の社員がこのタイプの場合は発言力も強いため、周囲を巻き込んだ抵抗になる可能性もあります。しかし逆に、納得さえすれば貴重な戦力になります。
(イ) IT化、システム化にキャッチアップできない社員
「コミュニケーションはFace to Faceが大切。電子メールでは心が通わない。」
間違いなくその通りなのですが、それも度を超すと「コンピュータは信用できない」「コンピュータに踊らされるのはイヤ」となり、IT化そのものに抵抗することになってしまいます。
でも、もしかすると「食わず嫌い」の可能性もありますし、主体性の強さが「IT嫌い」の言動となっているかもしれないのです。
(ウ) システム化の効果を信じない/理解しない社員
「システム屋さんの言うことは話半分で聞くべき」という主張を持っておられる方がいるかもしれません。
確かに、大げさな宣伝文句でアプローチする業務システムもありますが、十把一絡げで評価されるのも考え物です。これまでに、システム化によって業務がスムーズに進むようになったという経験をお持ちでないのかもしれません。
(エ) システム化に対して過剰な要求をする社員
上記とは逆に、システム化に対して過剰な要求を出すタイプの抵抗を見ることがあります。
要求定義/要件定義の際に多くの要求を主張する人は「自分は業務を熟知している」と自分の存在を顕示しようとしているのかもしれません。
ただ、オンプレミスのシステムの場合は、ここで、プロジェクトがスタックしてしまいますし、SaaSシステムの場合は、候補システムからどれも選ぶことができなくなってしまいます。
(オ) 仕事に興味がない社員
これは、抵抗ではなく、暖簾に腕押しのタイプです。もしかすると、若いうちの成功体験が不足していたのかもしれません。
ただ、このタイプも新業務プロセスが始まると、それを理解して活躍してもらわなければいけません。興味がないではすまされないのです。「人在(存在してはいるが会社に貢献できていない)」にならないような対応が必要なのではないでしょうか。
(カ) 言われたことはこなすが、熱意のない社員
上記と似ているようですが、「言われたことはする。言われた以上のことはしない」タイプです。
これも、抵抗とは言えないのですが、やはり、人材である以上、活躍してもらわないといけません。もしかすると「言われた以上のこと」が何かをわからずに悩んでいる可能性もありますので、見極めが必要になります。
(キ) とにかく変化が嫌いな社員
多くの場合、人は変化を好みませんが、その変化が自分に対して「正の方向」に働くものか、「負の方向」に働くものかによって、考え方を変えるものでもあります。
その正と負の評価をせずに変化を毛嫌いする人が抵抗を示すひとつのタイプです。
上記のように、抵抗を主な7つタイプに分類してみましたが、これらは、それぞれが独立している場合もありますし、複合して現れる場合もあります。
抵抗のタイプ毎の対応策とは
前章で分類した抵抗のタイプには、どんな対応策が考えられるのでしょうか。
この章では、以下の対応策の簡単な説明とそれに対応する抵抗のタイプ、および、対応する抵抗の時期について考えてみたいと思います。
- 経営層からの強いメッセージ
- プロジェクトのサブリーダー(またはメンバー)として指名
- 課題解決ワークショップの開催
- 環境から変える(外堀を埋めてしまう)
経営層からの強いメッセージ
BPRにおいて、特に重要だと言われるのが「経営層のコミットメント」です。
経営層から「わが社のビジョン達成のために業務改革が必要だ。そして、それをサポートするシステムの導入が必要だ。」というメッセージは必要不可欠です。
また、BPRに限らず、複数の部門に影響を与える業務改革やシステムの導入の場合も、経営層からのサポートは心強いものですし、社員に対する説得力も強くなります。
経営層からの強いメッセージは、(ア)~(キ)すべてのタイプの抵抗を防ぐだけではありません。業務変革、システム導入に前向きな社員に対しても、モチベーションの一層の向上という効果もあります。
なお、経営層からのメッセージ発出はできるだけ早期に行われることが望まれます。
具体的には、システム導入のための現行業務の洗い出し前や、導入対象となるシステムのリスト作成前には経営層からの支持を取り付けて、権威付けをしておきたいものです。
それによって「抵抗発生の未然防止」にもなります。
プロジェクトのサブリーダー(またはメンバー)として指名
「システムを導入して業務改革を行う」ことが承認されれば、プロジェクトの開始となります。
その中で、「利用者教育担当」のリーダーとして「(ア)従来のやり方を守ろうとする社員」を指名してはいかがでしょうか。
この立場は、新システムの内容を理解し、新業務の進め方を理解した上で、他部門との調整を行いながら、利用者教育のための資料を作ったり、教育スケジュールを組んだりしなければいけません。そして、この業務によって、新システム/新業務へのBuy-In(前向きな責任意識)が醸成されるのです。
また、「(ウ)システム化の効果を信じない/理解しない社員」「(オ)仕事に興味がない社員」「(カ)言われたことはこなすが、熱意のない社員」に「データ整備(既存の資料にある情報を新システム向けに整備する)」を任せることも考えられます。
この仕事は何を達成すれば良いかの着地点が決まっているため、これらの社員にとっては成果を出しやすい仕事だと言えます。
一方で、「新業務プロセスを検討する担当」に、抵抗する社員を割り当てると、プロジェクト全体に悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
なお、どの担当にアサインするにしても、しっかりしたコミュニケーションで、その仕事の目的と目標を伝えることが重要です。
課題解決ワークショップの開催
課題を解決するためのワークショップの開催も抵抗に対しては効果があります。
このワークショップには「新システム導入前/業務改革前」に行うものと「新システム導入後/業務改革後」に行うものがあります。
前者は「現状では、どんな課題があって、どうすれば解決できるか」がテーマになりますし、後者は「導入した新システムを利用してどんな変化を生むことができるか」がテーマになります。
両者とも、関係する社員が参加する訳ですが、前者はあまり多くの社員が参加してもまとまりませんし、「(エ)システム化に対して過剰な要求をする」タイプの抵抗の意識のある社員の参加は混乱を助長してしまいます。
できれば、後者を利用し、新システム導入を既成事実としたうえで、そこからもたらされるイノベーションを議論したほうが夢もありますし、DXを話題にすることも可能になるかもしれません。
なお、このワークショップの際、抵抗を示しながらも業務経験が豊富な人材に実開催時のファシリテーター(会の進行役)を任せるという方法もあります。ファシリテーターは、「自分の意見を主張するのではなく、参加者の意見をうまく引き出し、会を前に進める」ことがその役割です。
そういう意味では「(ア)従来のやり方を守ろうとする社員」「(ウ)システム化の効果を信じない/理解しない社員」が適任かもしれません。
環境から変える
「(イ)IT化、システム化にキャッチアップできない社員」には、この対応がベストです。
つまり、「新システムを使って、新業務を行う」以外に選択肢がないことを伝えて、その環境で業務を行う指示をするという意味です。
食わず嫌いの人に「おいしいよ」といっても効果はありません。新システムを使っている間に「なるほど、便利なものだ」という理解が得られると、間違いなく、必要な人材として活躍してもらえます。
ただし、そのためには、納得感があるシステムを選ぶことが重要なポイントになります。それによって、社員の主体性の方向が新しいシステムと新しい業務プロセスに向かうことになります。
組織メンバーとの4段階の向き合い方
ここまで、抵抗のタイプとそれへの対応策を列挙してきました。
ここで、いったん、本来の上司のあり方に立ち返ってみたいと思います。変化への抵抗の有無とは無関係に、本来、上司は、組織のメンバーとどう向き合うべきなのかを考えてみましょう。それは、年齢も、性別も、経験値も関係しない、4段階の向き合い方です。
夢を共有する
ビジョンということばは会社全体として使われますが、ここで言う夢とは、その上司の方が担当する管理単位での組織のビジョンを意味します。「上司としての夢」と言ったほうがわかりやすいかもしれません。
「私は、(私が管理する)この組織をxxxxしたい」という夢を共有することが第1段階です。この夢は抽象的なままでかまいません(例:私はこの組織を社内で「さすが!」と言われるようにしたい)。
抽象的なビジョンから、自分の具体的な目標の形をイメージできるメンバーは、きっと、どんな変化にもついてくることができます。
目標を共有する
上司の夢を聞いて「上司の夢の意味がわからない」と感じた社員には、もう少し具体的にした目標を共有し、「目標を達成するためのタスクとして何をしたらいいか」を考えるきっかけを与えることが第2段階です。
タスクをイメージすることができる社員は着実に成果を出す社員だと言えます。
タスクを指示する
抽象的な夢から引き出された具体的な目標をもとに、社員自身がタスクを設定できればいいのですが、それが無理な場合は「タスクの洗い出し」を議論しながら、その社員が担当すべきタスクを具体的に指示する必要があります。
多くの場合、この第3段階にあてはまる社員が多いのではないでしょうか。この場合、上司と部下の1対1の会話でタスクを洗い出すことも可能ですし、グループで洗い出しを行うことにより、チームワーク力が向上し、他メンバー/他部署とのかかわり方を意識することができるようになるというメリットがあります。
仕事の進め方を指示する
「タスクを指示されても、どうしていいかわからない」という社員もいます。新入社員などは、これにあてはまるかもしれません。
その場合は、どうやればそのタスクを進めることができるかという説明(教育)が必要になります。根気のいる第4段階ですが、欠かすことのできない段階と言えます。
業務のテーマによって(1)~(4)のどの段階になるかは一人の社員でも違ってきますが、この4段階をコミュニケーションの段階と考えれば、どの社員にもあてはまることになります。そして、それは社員からの抵抗が生まれることを未然に防止することに繋がります。
まとめ
このコラムでは、新システムの導入や業務改革/新業務プロセスの導入によって発生する「抵抗」とその対策について検討してきました。
企業の文化と社員の関係は千差万別ですので正解はありません。ポイントは「抵抗が発生する以前に、上司と部下の間には、しっかりとしたコミュニケーションが必要である」と言うことに尽きます。そのためには、まず、最後の章にあるような4段階の向き合い方を基準にしてはいかがでしょうか。
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