不動産賃貸借における賃貸借契約と公正証書の違いとは?
店舗情報の管理を行っていく上で欠かせないものとして、土地や建物の賃貸借契約情報がありますが、一般的な賃貸借契約書で契約を締結する以外に、公正証書を以て契約を締結するケースもあります。Pro-Signにも非常に多くの賃貸借契約情報が登録されていますが、公正証書での契約も多数存在します。
店舗情報管理を行う上で日頃からよく目にすると思いますが、そもそも賃貸借契約書での契約と公正証書での契約は何が違うのか、御存じですか?
今回は、その違いについて御紹介したいと思います。
公正証書とは
そもそも公正証書とは、私人(個人や法人等)からの依頼により公証人と呼ばれる方々がその権限に基づいて作成する文書のことを言います。土地や建物の売買、賃貸借、金銭消費貸借などの契約に関する公正証書が一般的ですが、贈与、委任、請負の他、土地の境界線をお互いに認め合うための合意、チェーン店経営に関する契約等、どのような内容の契約でも、法令や公序良俗に反するなどでないかぎり、公正証書を作成することが出来ます。
公正証書を作成する公証人は、裁判官や検察官、もしくは弁護士として長年実務に携わった法律のプロフェッショナルの中で、法務大臣に任命された人を言い、国の公務を担う実質的な公務員です(公証人法第13条)。法務省の公表では、公証人は全国に約500名、公証役場は約300箇所とされています。
公正証書と一般の契約書との違い
公正証書は、上記の通り法務大臣に任命された公証人の作成した文書のことで、公文書と呼ばれます。対して、私人(個人や企業)間で結ぶ一般の契約書は私文書と呼ばれ、明確に区別されています。
この違いによって生まれる大きな差は、「証拠能力」と「強制執行力」です。
一般の契約書では、当事者同士の合意の証として署名や捺印があったとしても、一方の当事者が「そんな契約をした覚えはない」「自分が署名や捺印をしたものではない」等という場合、きちんと当事者同士が内容を確認して当事者同士の意思に基づいて成立したものだと証明しなければならず、非常に大変です。一方、公正証書は公文書ですので、きちんと当事者同士の意思に基づいて成立したものだという強い推定が働きます。(民事訴訟法228条)
その為、契約内容について何か揉め事に発展した際に、契約書の内容や、そもそもの契約の有効性について議論する必要もなく、スムーズに解決を図ることが出来ます。これが証拠能力の違いです。
次に強制執行力の違いについてですが、一般の契約書では、例えば賃料の滞納等、契約書に定めた内容を相手方が履行しなかった場合、支払いの督促等を行うこととなりますが、それでも支払われなかった場合、回収する為には訴訟を起こすしかありません。その裁判で「いつまでにいくらを支払え」という確定判決を得て、ようやく強制執行で回収することが出来るようになりますが、これには一定の費用と大きな労力、長い時間が必要になります。一方で、公正証書で契約を締結しており、その中に「強制執行認諾文言」が含まれる場合は、契約内容の不履行があった際に、裁判手続を経ることなく直ちに強制執行をすることができます。このように、公正証書は契約当事者の正当な権利を守るために強い力を持っており、そこが一般の契約書との大きな違いです。
不動産の賃貸借でも、必ず公正証書で締結しなければならない契約がある
基本的には、どのような契約であっても法令や公序良俗に反するなどでないかぎり、公正証書を以て契約締結を行うことは出来ますが、逆に、法律によって公正証書の作成を義務付けられている契約が存在します。それが事業用定期借地権というもので、借地借家法第23条によって定められています。事業用の建物を建てる目的で土地を借りる契約ですね。
日頃から物件情報の管理をされていると、賃貸借契約や覚書、各種通知書等、色々な書面が存在していると思いますが、その中に公正証書で締結しているものが存在しているのは、事業用定期借地権が公正証書の作成を義務付けているからです。公正証書によって契約締結を行うことを義務付けていますので、一般の賃貸借契約で締結した場合、その契約は無効となり、契約自体が存在しないこととなりますので注意が必要です。
まとめ
如何でしたでしょうか。公正証書は正当な権利を守るために強い力をもった文書ですので、法律で義務付けられた事業用定期借地権以外にも、貸主側の要望で公正証書で締結しているものがある等、皆様の店舗にも有りませんか?
なぜこの契約が公正証書で巻かれているのか、契約当事者の考え方等が感じられる部分でもありますので、是非色々と見てみて頂ければと思います。