契約変更が有っても無くても見直しが必要になる?新リース会計基準で担当者を悩ますリース負債額の見直しとは
企業会計基準第 34 号「リースに関する会計基準」(いわゆる「新リース会計基準」)は2027年4月以降に始まる会計年度から強制適用になりますが、その準備の大変さがよく話題になります。
ただ、適用のための業務の大変さは適用当初の準備期間だけのものではありません。不動産を含むリース資産を利活用していく中では、様々な理由で、計上しているリース負債額の見直しが必要になります。新リース会計基準への対応の中では、そんな「見直し」も、業務負荷に繋がってくるのです。
このコラムでは、リース負債額の見直しがリース会計業務やその他の業務に及ぼす影響について解説します。
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リース負債額の見直しとは?
「リース負債額の見直し」と表現しましたが、実際の新リース会計基準での記述を簡単な表現で紹介します。
- 第39項 リースの契約条件の変更が発生した場合、「変更前のリースとは独立したリースとしての会計処理」か「リース負債の計上額の見直し」または「その両方(リースの契約条件の変更に複数の要素がある場合)」を行う。
- 第40項 リースの契約条件の変更がない場合で、「リース期間に変更がある場合」「リース期間に変更がなく、リース料に変更がある場合」は、リース負債の計上額の見直しを行う。
- 第41項 第40項の場合、「契約条件の変更がない場合のリース期間の変更」とは、「解約オプションを行使しないこと、または、延長オプションを行使することを見直した結果」を意味する。
- 第42項 契約条件にもともと設定されていた延長オプションの行使によって、あらたに解約不能期間が発生した場合も、 リース負債の計上額の見直しを行う。
つまり、貸借対照表へのリース資産登録時のリース負債額計算の前提条件が、企業の内部での意思決定や外部からの影響で変更となる場合には、「貸借対照表上のリース負債額を追加/修正すること」を意味するのです。その前提条件とは、リース期間の延長、リース料の増減、リース対象の拡張/縮小などが考えられます。
そして、リース負債額の修正には「変更前のリースとは別に、独立したリースとしての会計処理」か「登録されているリース負債の計上額の見直し」または「その両方」を行うことになります。
ここでは割愛させていただいていますが、どちらを選択すべきかの条件は適用指針の第44項、第45項に示されています。(なお、当コラムでは、新リース会計基準に準じて、不動産賃貸借契約も「リース」と表現しています。)
次の章では、「見直し」が発生するケースとその対応方法について、具体例をもとに解説いたします。
見直しのトリガーと会計処理
次に紹介する三つの例は、新リース会計基準の適用指針とその設例を参考にした代表的なものです。公式に提供されている設例自体も全て不動産賃貸借契約をテーマとしており、不動産賃貸借契約が「見直し」の頻度も高く、発生した際には複雑な対応が必要なことを暗に示唆しています。
なお、それぞれの例の冒頭につけた番号は適用指針の設例番号をそのまま使用していますので、詳しい会計処理については適用指針の設例をご参照ください。
契約が変更になる場合の見直し例
[15-1]不動産賃貸借契約期間中に契約店舗面積を拡大する例
原契約の内容/背景
- A社はリースを含むと識別される不動産賃貸借契約下で事務所スペース(2000平方メートル)を利用している。
- リース期間は10年であり、中途解約オプション、延長オプションとも行使する意思はない
見直しのポイント
- 同一建物内に追加の3000平方メートルの事務所スペースが必要になり、6年目以降について、貸し手と増床の契約変更に合意した。
- 原契約のリース期間満了のタイミングと合わせるため、追加スペース部分のリース期間を5年とし、これについても、中途解約オプション、延長オプションを行使しないこととした。
- 追加の事務所スペースに対するリース料単価は原契約から増額されるが、その時点での市場賃料をもとにして調整を加えたものであり、A社としても問題とは考えない。
会計処理
- A 社は、リースの契約条件の変更について、追加スペース分を独立したリースとして取り扱う。これにより、独立したリースのリース開始日に、リースの契約条件の変更の内容に基づくリース負債を計上し、当該リース負債にリース開始日までに支払った借り手のリース料、付随費用等を加減した額により使用権資産を計上することになる。
[15-5]不動産賃貸借契約について、契約期間の途中で賃料が減額される例
原契約の内容/背景
- A社はリースを含むと識別される不動産賃貸借契約下で事務所スペース(5000平方メートル)を利用している。
- リース期間は10年であり、中途解約オプション、延長オプションとも行使する意思はない。
見直しのポイント
- 契約期間の6年目開始日に、残りの契約期間(5年間)についての賃料の減額がA社と貸し手の間で合意され、契約変更となった。
会計処理
- 契約変更後の条件を反映してリース負債額を修正し、当該リース負債の修正額に相当する金額を使用権資産に加減する
契約が変更にならない場合の見直し例
[16]不動産賃貸借契約において、当初、想定していなかった延長オプションの行使が、契約期間途中で必要となる例
原契約の内容/背景
- A社はリースを含むと識別される不動産賃貸借契約下で建物の1フロアを利用している。
- 契約は解約不能期間が 10 年で、5 年間の延長オプションが付いている。
- 延長オプションを行使する場合は賃料年額が50,000千円から55,000千円に増額となる。
- A社に延長オプションを行使する意思はなく、リース負債額計上のためのリース期間を10年とした。
見直しのポイント
- 新規事業に携わる要員の新規採用が決定された。そのため、原契約の8年目開始のタイミングで同一建物内の追加の1フロアを8年のリース期間で契約することとした。
- 原契約下でのフロアと新規契約下でのフロアに勤務する要員は、同一建物内で協業して生産性を向上させることができる。これは、A社にとって、原契約の延長オプションを行使することへの経済的インセンティブになるため、当初の考え方を変え、5年間の契約期間延長を決めた。
- 原契約の延長オプション行使については、予め契約条項として設定されているものであり、契約変更には当たらない。
会計処理
- A 社は、リース負債計算のためのリース期間決定に変更が生じた日に、原契約分と延長期間分のリース負債合計額をリース料の現在価値まで修正し、当該リース負債の修正額に相当する金額を使用権資産に加減する。
- 追加契約の1フロア分については、原契約から独立したリースとして取り扱い、リース負債、使用権資産を計上する。
なお、上記の3例以外にも以下の例が掲載されています。
- 契約期間の短縮と同時に賃料の坪単価の増額が行われる場合(設例[15-2])
- 契約範囲の拡大と縮小の両方が生じる場合(設例[15-3])
- 契約期間途中で契約期間が延長される場合(設例[15-4])
- 使用権資産総額に重要性が乏しいと認められなくなった場合(設例[17])
注目すべきは、設例17を除いて、全ては不動産賃貸借契約に関するものだという点です。
多店舗展開企業において、[15-5]の例のような店舗の賃料減額は利益に直結するものです。設例で取り上げられるように、契約期間途中で貸し手/借り手の双方が減額に合意する場合も有りますし、契約更新の際に賃料交渉を実施している、という企業も非常に多く見受けられます。ただし、賃料減額を勝ち取っても、会計処理側では作業が増える要因になってしまいます。
「店舗数が多くなればなるほど、賃料減額(リース負債額の見直し)の機会が増える」とも言えますので、賃料減額のメリットがスムーズに享受できるように、システム化と組織の体制整備が重要なポイントとなります。
リース負債の見直しによって発生する業務
様々なトリガーによって発生する「リース負債額」の見直しですが、最も影響を受けるのは、やはり会計処理です。そして、その会計処理の結果として現れる財務指標の変化は、ステークホルダーへ提供されるべき情報となります。
しかしながら、それ以外への影響も見過ごすわけにはいきません。
当然のことながら、契約変更の結果を受けた契約書上の情報について、データベースを変更する必要があります。また、もう一つ重要なポイントとして、新リース会計基準においては、資産計上を行う上で重要となる「リース期間」を、事業計画や店舗への過去からの投資額、契約変更の際の交渉経緯や約束事等を踏まえて設定しなければなりません。
そうした契約書上に書かれている以外の重要な情報を、どのように管理していくかという観点も非常に重要なポイントとなります。それら重要な情報の管理は、店舗数が多くなればなるほど複雑性が増してきますので、出来れば管理ツールを有効活用することが望ましいと思われます。
契約の変更や見直しに適した管理ツール
では、契約の変更やリース負債の見直しに適したツールとはどんなものでしょうか。まず、「このテーマが求めるツールの特性」を明確にしておきたいと思います。
第1に「契約書をデータとして管理できること」「管理項目がフレキシブルに設定できること」は基本的な特性ですが、「履歴管理ができること」も重要なポイントです。
それらに加えておきたいのが「サステナブルに運用できること」です。
これは、繰り返す事象に対する意思決定に利用でき、再現性が求められる場合に利用できるというツールそのものの特性でもありますが、組織体制から見て、利用が属人化しないというポイントも含んでいます。
これらの観点から、「契約書の紙での保管」「契約書のPDFでの保管」は目的に沿わないと言えます。契約書の保管自体は必須ですが、管理、分析や利活用には向いていないと言えるでしょう。
次にExcelでの契約データ管理を見てみましょう。
契約書上にある項目だけを管理するのであればExcelが廉価で効果的かもしれません。
ただし、履歴管理には難があります。
履歴管理として必要とされているのは「契約としての履歴管理」「交渉を含んだ意思決定の履歴管理」「店舗への投資情報を把握する為の建物メンテナンス履歴管理」等です。これらを管理するにはそれぞれに多くのExcelが必要になります。
ただし、そうなると管理が属人化してしまい、特定の社員だけが使えるようになるため「サステナブルな運用」に支障が出てしまうのです。また色んなExcelを突合しながら物事を判断する必要が出てきますので、ミスの温床に繋がる点も見過ごせません。
結局のところ「データベースでの契約データ管理」が必要にならざるを得ないのですが、新リース会計基準に対応することだけが契約管理の目的ではありません。
特に、複雑な不動産賃貸借契約については、誰でも簡単に使えること、且つリアルタイムで情報の一元化が実現化出来ることが必要です。それにより、日常のオペレーションと戦略的なレベルの業務がひとつのツールで行えることになるのです。
最後に
当コラムのテーマである「リース負債の見直し」は、どの企業でも避けることができないものです。そして、特に多店舗展開の企業にとっては重要なテーマでもあります。
ただ、そのための契約関連データの一括管理は必須条件です。契約データの管理を単なる業務としてではなく、店舗展開とそれにつながる会計処理の戦略的業務として位置づけることが新たなステップだと考えます。
また、このテーマに関して、新リース会計基準を補足する適用指針の設例が不動産賃貸借契約に関するものを中心としているという事実は、その重要性を表していると考えて間違いありません。不動産賃貸借契約のデータ管理に最適なツールであるPro-Signに関しましては当社までお問い合わせください。