リースを構成する部分/しない部分の扱い方は?新リース会計基準で発生する新たな会計処理とは
新リース会計基準の準備を進めて行く中で、疑問点がいくつも発生することは想像に難くありません。このコラムでは、それらの疑問のうちのひとつである「リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分とは何か」について、考えてみようと思います。
リースや不動産賃貸借の契約対象や契約内容は、企業毎に違っていますので、「リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分」を二者択一として答えが出せるわけではありませんが、このコラムを通じて、考え方としての情報提供が可能だと考えます。
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新リース会計基準での記述
まず最初に、企業会計基準第 34 号「リースに関する会計基準」(いわゆる「新リース会計基準」)では、どのように「リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分」を表現しているのかを見ていきたいと思います。
新リース会計基準の第28項と第29項に関連する記述がありますが、ここでは、それを簡略化して紹介します。
第28項
借り手も貸し手も、「リースの識別に関するフローチャート」に従って「リースを含む」と識別された契約については、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行わなければなりません。
なお、当社コラム「この契約もリースに該当する?新リース会計で抑えておくべき識別のポイント 」でもご紹介していますように、不動産賃貸借契約もリースと同等と見なされます。
なお、そのコラム中に引用しているフローチャート図の最下部にある「当該契約はリースを含む」と言う文言がこのコラムのキーワードにもなっています。
第29項
第28項の表現の中に「原則として」という文言があるように、この項で例外を認めています。
その例外とは「リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けることが困難な場合や、区分する業務に大きなコストが発生する場合は、区分しなくてもいい」というものです。
ただし、区分せずに、全体をオフバランス処理するのではなく、全体をオンバランス処理しなければなりません。これは、リースを構成しない部分が、事業として大きな金額でない場合の救済措置となっています。ただし、この場合、同種の物件を対象とする契約については同じ扱いにする必要があります。
なお、第30項も「リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分」に関係する項ですが、連結財務諸表に関する記載ですのでここでは割愛させていただきます。
実務への影響
では、この2項が実務に対してどんな影響をもたらすのでしょうか。
- 業務委託契約のように人的な役務提供を中心としたサービス契約の中で、何らかの物件が専用使用される場合があります。
例としては、コンピュータサーバー運用の全面委託契約に専用サーバーそのものが含まれる場合や、倉庫運用の委託契約に物件としての専用ラックが含まれる場合などが考えられます。従来、これらは「サービスの一部」として考えられ、全体としてオフバランス処理をされていますが第28項に従い、物件部分をオンバランス処理、サービス部分をオフバランス処理にしなければいけなくなります。これは、従来とは大きく変わる部分であり、「サービス契約のはずなのにオンバランス処理?」という疑問のような嘆きが聞こえてきそうです。
- 仮に、サービス部分の比重が物件部分よりも大きい契約であるにもかかわらず、第29項に従って、全体をまとめてオンバランス処理を行うと判断すると、負債額が非常に大きなものとなってしまい、財務上の妥当性を欠くことになってしまいます。
- 第29項に従う場合、会計処理は簡素化することができるとは言うものの、オンバランス処理をすることで会計業務の負荷が増えることに違いはありません。
- 第29項に従う例外対応の場合であっても、何らかの情報がなければ「同種の物件についての契約を全て例外扱いにする」という判断ができません。
つまり、リース契約、不動産賃貸借契約、および、前述のようなサービス契約の全ては事前に洗い出されているべきですし、それぞれの契約の中の構成要素とその費用分析は行われなければなりません。つまり、この例外は「契約の構成要素毎の会計処理をしなくてもよいという簡素化」であり、「契約を分析しなくてよい」という簡素化ではないのです。
上記のように、動産リースであれ、不動産賃貸借契約であれ、また、業務委託のようなサービス契約であれ、リースを含むと識別された契約については、「リース部分をオンバランス処理、それ以外をオフバランス処理」とするか、「全体を分けずにオンバランス処理」とするかの二つの方法しかないということになります。
「リースを構成しない部分」:動産リースでの例
前の章でサービス契約の例をご紹介しましたが、リースを構成しない部分として、動産リースの場合にはどのような例が考えられるでしょうか。
最もイメージしやすい例は「カーリース(オートリース)」かもしれません。
カーリースには車両本体とその付属備品の費用だけではなく、一般的には保険料、車検費用、メンテナンス費が含まれます。この場合、車両本体と付属備品はオンバランス処理を、それ以外はオフバランス処理をすることになります。
また、コンピュータサーバーや製造機械、検査機器のリース契約についても、それぞれの本体や周辺機器はオンバランス処理を、定期保守費、保険料等はオフバランス処理を行うことになります。
ただし、当社コラム「オンバランス処理とは?新リース会計基準に関する4つの用語解説 」でも紹介させていただいているように、リース契約期間でのリース料合計が300万円以下(本体と付属機器部分のみ)の場合はオンバランス処理の対象外となります。カーリースを代表例としましたが、300万円以上の乗用車をカーリースとする場合は、それほど多くないのかもしれません。
「リースを構成しない部分」:不動産賃貸借契約の場合の例
不動産の賃貸借契約についても例を考えてみましょう。
不動産賃貸借契約に組み込まれている物件以外の最も代表的なものは「役務提供」です。具体的には、日々の清掃費や定期的なメンテナンス費、警備費などがあります。これらを「リースを構成する部分」と判断してしまうと、財務的影響が大きくなる場合があります。
また、これら以外にも「共益費」が重要な位置づけになる場合もあります。さらに、インターネット接続料、光熱費、自治会費などが賃料に合算されている場合も有りますが、物件が土地なのか建物なのか、店舗なのか事務所なのか家屋なのか駐車場なのかによっても構成要素は違ってきます。
このように、不動産賃貸借契約は、動産リースに比べて構成が複雑になるケースが多く、監査法人を交えた検討が望ましい場合があります。
なお、不動産賃貸借契約についても300万円以下の場合はオフバランス処理が認められる例外対応規定がありますので、借り上げ社宅や駐車場などは対象外となることが多いと考えられます。また、借り上げ社宅等では共益費を含んだ金額で契約される場合があり、それが300万円の閾値を「超える/超えない」の重要なポイントになる可能性があります。
それぞれの契約の構成要素の確認方法
ここまで、サービス契約、リース契約、不動産賃貸借契約において「リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分」の例を見てきましたが、実際には、それらの構成はどうすればわかるのでしょうか。
一番確実な方法は「契約書を確認すること」です。多くの場合、契約書には構成要素の金額内訳が記されています。また、これから新規の契約を締結するケースであれば、構成要素とその金額内訳の記載を貸し手に求めることも可能です。
既存の契約に構成要素の内訳が記載されていない場合、貸し手に確認するという方法があります。新リース会計基準の第28項は「借手及び貸手は、」という文言で始まっています。つまり、貸し手自身も構成要素を区分しなければならず、情報を持っていることになります。
ただ、貸し手とのコミュニケーションがスムーズでない場合「市場価格を参考にする」「他の事例を参考にする」等の方法が考えられますが、これは、あくまで、「構成要素はわかっているが金額比率がわからない場合」の対応となります。
最後に
新リース会計基準を単純化した解説と、いくつかの例で「リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分」の解説をさせていただきました。
最初にもお伝えしましたが、企業毎に、また、契約毎に、その内容は違っていますので、ひとつずつ、リースと識別される部分とそうでない部分の区分を検討しなければ始まりません。特に多店舗展開をされている企業における不動産賃貸借契約については、オンバランス処理での財務的な影響が大きく、ち密な検討が必要になります。ただし、その前には、全ての契約がリスト化されている必要がありますし、情報が一元管理されていなければなりません。そして、その内容がデータベース化されていることが望ましい姿だと言えます。
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