オンバランス処理とは?新リース会計基準に関する4つの用語解説
2027年4月の会計年度からの適用開始が決定されている企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(いわゆる「新リース会計基準」)については、リース契約/賃貸借契約の洗い出しから、会計プロセスの変更、会計システムの変更まで、非常に幅広い準備が必要になります。
その「新リース会計基準」について、多店舗展開に焦点をあてると、次の3点が重要ポイントになると考えられます。
- リース会計を行う対象が拡がり、不動産賃貸借契約もリース会計対象と見なされるようになる
- 従来、オペレーティングリースの考え方をもとに処理していた不動産賃貸借契約が、一部の例外を除いて全てがファイナンスリースと同様の考え方に変わる
- 不動産賃貸借の契約期間ではなく、リース会計を行うための基準期間を設定する必要がある
これらの重要ポイントへの準備の中でよく使われる用語に「オフバランス処理」「オンバランス処理」があります。
このコラムでは、そのふたつの用語の解説を中心にして、多店舗展開における不動産賃貸借契約とリース契約との関係を明確にしていきたいと思います。
なお、以下の当社のコラムでも「新リース会計基準」の概要を紹介しています。
それらをご覧いただき、概要をご理解いただいた上で、このコラムをお読みいただくと、「なるほど」とお感じいただけると思います。
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「オフバランス処理」と「オンバランス処理」
まず、用語としての「オフバランス」と「オンバランス」を考えてみたいと思います。
この二つの用語に共通する「バランス」は、「バランスシート(貸借対照表)」の「バランス」と同じものです。
つまり、貸借対照表上に数値を表さないのが「オフバランス」であり、数値を表すのが「オンバランス」ということになります。
その会計処理の考え方について、もう少し詳しく見ていきましょう。
オフバランス処理は「取引の内容について、損益計算書の範囲で経費処理を行い、その対象物を貸借対照表上の資産として計上しない(当然、経費の相手勘定である現預金には影響します)」を意味します。
一方、オンバランス処理は「取引内容を損益勘定だけではなく、貸借勘定としても取り扱う」という意味になります。
具体的には、取引によって購入した物品等を資産として貸借勘定として計上するのですが、その対象として、購入ではないリース契約も含まれます。
そして、2027年4月から適用が必須となる新リース会計基準においては、不動産の賃貸借契約もリースに該当すると見なされ、オンバランス処理の対象になるのです。
仕訳の内容としては、貸借勘定として「使用権資産/リース負債」を計上し、損益勘定として「(リース料を分解した)リース負債と支払利息」を計上するとともに「減価償却費」によって計上した資産を償却します。
さて、貴社の現在(新基準対応前)の処理は、オフバランス処理、オンバランス処理のどちらかでしょうか?
一般的に、多店舗展開で利用されている不動産(土地、建物)は賃貸借契約のもとで利活用され、その賃料はオフバランス処理をされていると思います。
ただ、既にIFRS対応をされている企業においては、オンバランス処理をされているかもしれません。
オンバランス処理を導入することによる影響は、「会計処理が複雑/面倒になること」「会計プロセス、会計システム、社内の情報の流れの整備が必要になること」だけではなく、財務諸表への影響として、以下のポイントが挙げられます。
- 使用権資産という「資産」が増える。つまり、総資産の増加となり、総資産利益率(ROA)が低下する。
- リース負債という「負債」が増える。つまり、負債比率が上昇する。
- 支払利息は営業外費用のため、その部分の一般管理費が下がり、営業利益が増えるように見える。ただし、経常利益ベースでの増減はない。
「オペレーティングリース」と「ファイナンスリース」
ここで、別の二つの用語を紹介します。それは「オペレーティングリース」と「ファイナンスリース」です。
リース契約のタイプとして「オペレーティングリース」と「ファイナンスリース」があります。
ファイナンスリースとは、以下のものをさします。
-
解約不能のリース:契約期間の中途において契約を解除することができないリース。
または解約にかかる違約金等が高額になり、実際には解約できないリース - フルペイアウトのリース:リース物件の取得価格及び諸経費のほぼ全額をリース料として支払うリース
つまり、ファイナンスリースとは「物件の売買取引と同等のリース契約」と言うことができるのです。
もう一方の「オペレーティングリース」は「ファイナンスリースではないリース」という定義となっています。
不動産賃貸借契約について、リースの二つの区分の観点から、土地についてはオペレーティングリースに該当するとされています。
また、建物について、どの区分にするのかは個別の検討が必要ですが、新リース会計基準において重要なことは「どちらのリースに該当するかに関係なく、不動産賃貸借契約はオンバランス処理をしなければいけない」ということです。
四つの用語と不動産賃貸借契約の関係
「オフバランス「オンバランス」「オペレーティングリース」「ファイナンスリース」の四つの用語を紹介させていただいた理由は、日本での新リース会計基準が会計基準のグローバライゼーションと深く関わるからです。
2016年2月にIFRS16号(国際財務報告基準「リース」)が公表され、続いて、同年3月に米国会計基準Topic 842(リース)が公表されました。
両者には微妙な違いがありますが、その違いが、先に紹介した四つの用語に関連するのです。
IFRS16号では、オペレーティングリース、ファイナンスリースというリースの分類を廃止し、「リース」という単一の区分としました。
そして例外を除いて、全て、オンバランス処理を行うと決められました。
例外とは「リースの総額の財務諸表に対する影響が重要でない場合」「12か月以内の契約期間の短期リース」「5,000USドル以下の少額リース」のオフバランス処理が可能であることをさします。
また、Topic 842では、オペレーティングリース、ファイナンスリースというリースの分類は残すことになっています。
そして、ファイナンスリースについては、国際基準と同様のオンバランス処理を行うこととしました。
ただし、オペレーティングリースについて、貸借対照表の処理はファイナンスリースと同様ですが、損益計算書上の処理はリース料として処理するという簡便化を図っています。
なお、こちらも、例外があり、「12か月以内の契約期間の短期リース」はオフバランス処理をしてもよいことになっています。
そして、2027年4月から始まる新リース会計基準は、この両者を参考にして、「日本として適用しやすい形」をめざしたのです。
日本の新リース会計基準では、リースの分類は残したものの、例外を除いてオンバランス処理が求められます。
また、日本では「12か月以内の契約期間の短期リース」「300万円以下の少額リース」が例外としてオフバランス処理とすることが可能とされたのです。
新リース会計基準により不動産賃貸借契約がリースの扱いになることは、例外を除きオンバランス処理を求められることと同義です。
4つの用語とIFRS16号、Topic842の流れを見ると、オンバランス処理を行うという方向に納得せざるを得ないのですが、対応の準備として、不動産賃貸借契約についての情報を整備する必要があります。
整備すべき基本的な情報としては、以下のものが挙げられます。
- 物件名、住所、契約の相手先、契約期間、契約開始日、契約終了日
- 普通借地/借家契約、定期借地/借家契約の区分
- 賃貸料、消費税額、支払回数
- 解約オプションの有無、契約延長オプションの有無、自動更新条項の有無とそれぞれの付帯条件(違約金等)
- 付属設備の内容、その耐用年数 等
また、新リース会計基準対応のために必要な情報として、以下のものが考えられます。
- 本体部分と支払利息部分の費用区分
- 減価償却法の考え方(定率法、定額法)
- 土地、建物をひとつの契約としている場合は、契約金額の按分情報(対応を分けて考えないといけないため)
- 当該不動産の事業における重要性 等
これらに加えて、「当該不動産賃貸借契約が新リース会計基準対応対象かどうか」「対象と識別するのであれば、リース期間をどう見積もるか」の検討結果とその経緯も重要な位置づけの情報になります。
上記は全ての必要な情報を網羅している訳ではありませんが、これだけを見ても、情報の整備が急務であり、整備された情報が一元管理される必要があることをご理解いただけると思います。
オフバランス処理が可能な不動産賃貸借契約
原則としてオンバランス処理が求められるリース契約、賃貸借契約ですが、前章でお話したように、例外としてオフバランス処理が認められるケースがありますので、再度紹介しておきます。
短期リース
「リースに関する会計基準の適用指針」第20項にあるように、リース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースを短期リースとして、例外扱いにしています。
また、これは、同じく「リースに関する会計基準の適用指針のBC(結論の背景)37では「短期リースについては、重要性が乏しい場合が多い」と表現され、IFRSの考え方に準拠しています。
少額リース
「リースに関する会計基準の適用指針」第22項では、「契約書に記載されている契約期間内の支払い賃料合計が300万円以内である」契約も例外の扱いとしており、BC39でも「少額なものについては、重要性が乏しい場合が多い」と表現しています。
なお、この例外規定は不動産賃貸契約のみを焦点としている訳ではありません。
多店舗展開に利用される不動産が短期であったり、少額であったりするケースがどれだけあるかと言うと、それほど、あてはまるものはないかもしれませんが、少し視点を変えて、ワンルームマンションの会議室利用、社員のための駐車場契約、社宅などは1件ずつ個別に判断することができますので、例外対象にすることが可能かもしれません。
また、例外とするための閾値(契約期間、賃借料合計)をわずかながら超えている場合に、貸し手との交渉の協議が発生するのかもしれません。
最後に
オフバランス処理、オンバランス処理という用語を中心に新リース会計基準への対応準備の紹介をさせていただきました。
「四つの用語と不動産賃貸借契約の関係」の章にも記載いたしましたが、オフバランス処理を行うにしても、オンバランス処理を行うにしても、賃貸借不動産についての物件情報の整備が急務です。
そして、それは、1度限りのことではなく、多店舗展開を続ける限りついて回る業務になります。
この、地道な業務にどれだけの時間とコストと労力をかけるかは経営判断かもしれませんが、DXに向かうことが重要視される時代において、バックエンドの業務の比重を高めることは社員のモチベーション低下に繋がる恐れがあります。
Pro-Sign は、それらの情報整備を定型化し、逆にDXの基盤となるものです。
また、情報の登録、更新を請け負うサービスも開始しています。
「複雑で面倒な新リース会計基準対応」とは考えず、Pro-Sign の利用で新リース会計基準対応とDXの基礎固めの両方を実現されてはいかがでしょうか。