【新リース会計基準】草案から基準公表までに何が変わった?その流れや影響について解説します
2023年5月2日にASBJ(企業会計基準委員会)によって公開された「リースに関する会計基準(いわゆる「新リース会計基準」)の草案は、コメント募集とそれらへの対応を検討した後、2024年9月13日に正式版として公表されました。
このコラムでは、草案から正式基準公表までの流れと、草案から変更になったポイントについて解説します。
なお、草案からの変更点は多岐にわたりますが、このコラムの後半では、多店舗展開での不動産賃貸借契約に関係する部分に焦点をあてています。
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草案公開から正式基準公表までの流れ
日本における「リース会計」について、2007年3月に公表された基準は、当時の国際的な会計基準と整合性のあるものでした。
ところが、2016年1月にリース会計に関する国際基準としてのIFRS16号が公表され、続いてその2月に米国の会計基準Topic 842が公表された結果、日本のリース会計基準が国際基準と整合性が取れないという状況となっていました。
この新たな国際基準/米国基準では「リース契約における使用権部分に係る使用権資産と、それに伴うリース負債を計上する使用権モデルの採用」を主要ポイントとしているため、企業業績の国際的な比較において議論となることが懸念されていました。
この問題に対応するためASBJは2023年5月に新たなリース会計基準の草案「リースに関する会計基準(案)」を公開し、それに対するコメントの募集、内容の変更、追加、削除の修正を行い2024年9月に正式基準として企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を公表しました。
草案に対しては32の企業/団体と公認会計士等の13名の個人がコメントを出しており、その内容は365に分類され「企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等に対するコメント」としてまとめられています。
コメントの内容は多岐にわたりますが、それをもとにした検討の結果、「文言の変更」「表現の修正」をはじめとして、「新基準が示す使用権モデルコンセプトの詳細化/具体化」「会計処理についての考え方の詳細化/具体化」と、それらの修正の影響を受けた「リースに関する会計基準の適用指針」の内容と、それに記載されたBC(詳細説明:Basis for Conclusions結論の背景)、また、その補足資料である「リースに関する会計基準の適用指針」(設例)の附番や内容の変更が行われ、正式基準として完成しました。
不動産賃貸借契約管理への影響
草案から正式基準への変更点には、次のような用語の変更も含まれます。
- (変更前)リース取引 (変更後)リース
- (変更前)リース資産 (変更後)使用権資産
- (変更前)リース債務 (変更後)リース負債
ただ、これらのような見た目の変更だけではなく、内容として、不動産賃貸借契約管理に関係するものも多く含まれています。
ここでは、そのうちの以下の2点について簡単に解説します。
- 少額リースにおけるリース期間の定義の変更
- 「合理的に確実」が意味する閾値の明確化
少額リースにおけるリース期間の定義の変更
少額リースは「リース料合計が300万円以下のもの」とされています。
ただし、公開草案時点では「リース料の合計額」を計算する際に、リース対象期間として「リース契約の延長オプション及び解約オプションの行使の可能性を判断すること」としていました。
これに対して「少額リースにおいて、リース期間を判断することの実務上の負担が大きい」というコメントが寄せられ、「少額リースにおいては、リース対象期間をリース契約期間とする」というリースに関する会計基準の運用指針第23項の変更の判断がなされました。
また、この変更には、ASBJによる「事業活動において重要なリース契約は、この変更の影響を受けない」という判断も含まれています。
つまり、これにより、例えば「24か月契約のリースで、月次のリース料が125,000円以下の場合」は、延長オプション、解約オプションを検討することなく、リース会計対象から除外できることになります。
これを不動産賃貸借契約にあてはめた場合、多店舗展開のビジネスからは少しそれますが、最もわかりやすい具体例は「借り上げ社宅」かもしれません。
また、店舗ではありませんが、ワンルームマンション等を社内の地域担当者の簡単なミーティング場所として利用している場合も除外対象になる可能性があります。
「合理的に確実」が意味する閾値の明確化
利用権資産/リース負債の計上値は、リース料とリース期間によって計算されます。
そして、リース期間は契約書にあるリース期間ではなく、「リース契約の延長オプション及び解約オプションの行使の可能性を判断」した上で設定することになります。
この際の「延長するか、中途解約するかの判断基準」となるキーワードが「合理的に確実」という表現です。つまり、合理的に確実に延長する(または、延長しない)可能性があるか、延長するのであればどれくらいの期間延長するのか、合理的に確実に中途解約する(または、しない)可能性があるかを検討するという意味なのですが、その言葉が示す閾値がわかりにくいというコメントが寄せられました。
これに対応するため適用指針に次の追記がなされました。
(以下は「リースに関する会計基準の適⽤指針」BC29項から抜粋)
「合理的に確実」の判断にばらつきが生じる懸念及び過去実績に偏る懸念への対応として、借手が延長オプションを行使する可能性又は解約オプションを行使しない可能性が「合理的に確実」であるかどうかの判断は、借手が行使する経済的インセンティブを有しているオプション期間を借手のリース期間に含めるものであることを踏まえ、当該判断の際に考慮する経済的インセンティブの例を本適用指針に示すこととした。
そして、同じく「リースに関する会計基準の適⽤指針」の第17項に、以下の5つの「経済的インセンティブの例」が示されています。
(1) 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
(2) 大幅な賃借設備の改良の有無
(3) リースの解約に関連して生じるコスト
(4) 企業の事業内容に照らした原資産の重要性
(5) 延長オプション又は解約オプションの行使条件
リース契約を「合理的に確実」に延長する/しない、解約する/しないを考えるポイントが上記の5点になります。この5点が提示されたことで、「合理的に確実」の意図がつかみやすくなりました。つまり、意思決定のために延長、解約のコストやその資産の利益性、戦略性を基準にするというということなのです。
上記の2つの引用から、新リース会計基準では、不動産賃貸借契約が強く意識されていることを読み取ることができます。
また、「リースに関する会計基準の適⽤指針(設例)」には4つの具体例(設例8-2から設例8-5)を使って「経済的インセンティブ」の考え方を示しています。そして、それら全ては不動産賃貸借契約に関するものです。
なお、リース期間設定と経済的インセンティブの考え方については、当社コラム「経営指標に直撃!新リース会計基準で変わるリース期間の考え方とは」でも解説しています。
最後に
新リース会計基準の公開草案に対して寄せられた多くのコメントをもとにしたASBJでの検討を経由し、正式な基準として公表された企業会計基準第34号 「リースに関する会計基準」までの流れをこのコラムで取り上げた理由は、「多くのコメントが示しているように、新リース会計基準に対応するためには、複雑で、多くの時間を要する準備作業が必要とされるから」に他なりません。
とくに、不動産賃貸借契約については、新リース会計対象となるのか。対象になるとすれば、リース期間をどのように設定すればいいのかという課題をクリアしなければならず、多店舗展開企業としての「経済的インセンティブ」を精査するとともに事業戦略や営業戦略の論理武装が求められます。
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