会計と税務のズレにどう対応する?令和7年度税制改正と新リース会計基準の“違い”を解説



2024年9月13日に「企業会計基準第34号リースに関する会計基準」(いわゆる「新リース会計基準」)が公表されました。
また、それとは別に、2024年12月27日に「令和7年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。

実は、このふたつの間で、ある「差異」が生じ、関係する事業者の中で議論が起きています。
そして、その「差異」は、不動産賃貸借契約を活用して多店舗で事業を展開されている企業にも大きく影響しそうなのです。

当コラムでは、この「差異」について、例をまじえて説明するとともに、その対応方法について提案させていただきたいと思います。
なお、当コラムは閣議決定された「令和7年度税制改正の大綱」をベースに構成していますが、国会等での今後の議論により、何らかの変更が加わる可能性があることをご了解ください。




目次[非表示]

  1. 1.新リース会計基準とは
  2. 2.「令和7年度税制改正の大綱」とは
  3. 3.新リース会計基準対応と税務対応の二重管理
  4. 4.「差異」の対応方」
  5. 5.3つの業務
  6. 6.最後に


新リース会計基準とは

まず、新リース会計基準のポイントをまとめておきましょう。
全体の概要は当社の他のコラムでも説明していますので、ここでは、事業で不動産賃貸借契約を利用するという立場でのポイントを押さえておきたいと思います。


新リース会計基準以前の定義では、ファイナンスリースはオンバランス処理、オペレーティングリースはオフバランス処理とされていました。
ファイナンスリースとは、中途解約が認められず、かつ、契約物件の価格全てを借り手が支払うという形態のリース契約で、一方のオペレーティングリースは「ファイナンスリース以外のリース」とされています。


新リース会計基準が強制適用となる2027年4月以降の事業年度からは、ファイナンスリースはもちろん、オペレーティングリースであってもオンバランス処理が必須になります。
また、不動産賃貸借契約は正確な意味のリースではないものの「リースを含む契約」と定義されることになり、少額、短期間という例外を除いて、オンバランス処理が必要となります。


オンバランス処理とは貸借対照表上に使用権資産とリース負債を登録することを意味しますが、具体的には、リース契約や不動産賃貸借契約開始時に現在価値計算を行い、それをもとに貸借対照表に使用権資産と相手勘定であるリース負債を登録し、減価償却費で使用権資産を、リース費の元本部分でリース負債を減額していくという会計仕訳を意味します。
また、損益計算書には減価償却費とリース料の利息相当部分が仕訳として計上されることになります。

詳しくは当社のコラムもご参照ください。

  新リース会計基準の基礎と多店舗展開企業に与える影響について 多店舗や多事業所で事業を展開されている企業の皆様、新リース会計基準への対応準備は進めていらっしゃいますか。この記事では、新リース会計基準への対応の準備として重要だと言われている店舗情報管理について解説します。 Pro-Sign
  【新リース会計基準】草案から基準公表までに何が変わった?その流れや影響について解説します このコラムでは、草案から正式基準公表までの流れと、草案から変更になったポイントについて解説します。 なお、草案からの変更点は多岐にわたりますが、このコラムの後半では、多店舗展開での不動産賃貸借契約に関係する部分に焦点をあてています。 Pro-Sign


「令和7年度税制改正の大綱」とは

では、「差異」を構成するもう一方の令和7年度税制改正の大綱はどういった内容でしょうか。
次に「令和7年度税制改正の大綱」を紹介します。
 
税制改正は毎年のように行われますが、令和7年(2025年)度税制改正の大綱は令和6年(2024年)12月27日の閣議決定資料として財務省から発表されています。
その内容は、全体として「個人所得課税」「資産課税」「法人課税」「消費課税」「国際課税」「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」「納税環境整備」「関税」という章立てで記述されていますが、そのうちの「法人課税」部分に以下のリースの考え方が示された部分があります。


法人が各事業年度にオペレーティング・リース取引によりその取引の目的となる資産の賃借を行った場合において、その取引に係る契約に基づきその法人が支払う金額があるときは、その金額のうち債務の確定した部分の金額は、その確定した日の属する事業年度に損金算入する。
(注1) 上記の「オペレーティング・リース取引」とは、資産の賃貸借のうちリース取引(ファイナンス・リース取引)以外のものをいう。


出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」引用


この一文は、つまり、「新リース会計基準ではオペレーティングリースもオンバランス処理をすることとしていますが、税務処理としては従来通りオフバランス処理をしてください」という意図の文なのです。

また、この文の中には不動産賃貸借契約を明示的に「リースとして扱う」とは記載されていないため、新リース会計基準とはくくり方が違っていますが、注1にあるように「オペ―レーティングリース取引とは、資産の賃貸借のうちファイナンス・リース取引以外のものをさす」と表現されていますので、不動産賃貸借契約もここに含まれると考えられるのです。


新リース会計基準対応と税務対応の二重管理

さて、ここまでの新リース会計基準と令和7年度税制改正の大綱の説明で、両者の「差異」がどこにあるかおわかりになったと思います。
定義としての差異は「ファイナンスリースとオペレーティングリースの仕訳処理の考え方の差」と「不動産賃貸借契約の位置付けの違い」だと言えますが、重要なことは、そこから派生した「企業会計上の費用と税務上の損金の差」であり、最終的には「法人税の金額の差異」につながるのです。

会計基準に従うことも、税法に従うこともコンプライアンス要件ですし、会計基準順守はステークホルダーとの関係性にも影響を及ぼします。
また、税法の順守は企業の社会的責任だと言えます。
したがって、両者を二重管理することは避けることができないのです。
 
では、次の章で二重管理によって導き出される法人税の差異について、具体例を使って確認してみましょう。


「差異」の対応方」

ここでお示しする具体例は、企業会計基準員会(ASBJ)が作成した「リースに関する会計基準の適用指針」(設例)を参考にして作成した仮想的なもので、前提条件は以下の通りです。


前提条件

A社(借手)はB社と不動産賃貸借契約を締結し、リースを含むと判断される5,000 平方メートルの事務所スペースを利用することとした。リース期間は X1年4月1日からX11年3月31日の10 年で、毎年3月末に支払うリース料は年額50,000千円である。現在価値計算、利息法での利息計算に使用されるA社の追加借入利子率 は年 6%である。減価償却は定額法とし残存簿価は0とする。



上記の前提条件をもとに作成したものが下表です。



 
この表の構成は以下の通りです。
それぞれの行が年度を表しています。
また、表は大きく2つに分かれており、左側8列が新リース会計基準に従ってオンバランス処理を行った結果を、右側3列が従来の賃貸借処理を表しています。


リース会計基準側にある使用権資産は現在価値計算によって契約開始時の初期登録を行い、減価償却によって期首残高、期末残高を計算しています。
また、リース負債は使用権資産同様に初期登録を行い、それを、支払賃借料の元本部分(支払賃借料から利息相当分を差し引いたもの)で取り崩していきます。
これを年度ごとに費用計算を行って決算としての法人税額計算につなげるのですが、その費用額は計上費用部分に表されています(減価償却費+利息相当分)。
一方、税務側で計上される損金は支払賃借料そのものになります。
 
ご覧いただけますように、各年度において、リース会計として計上される「費用」と税務として計上される「損金」の額が違っています。
これが、当コラムのテーマである「差異」の実態です。
企業会計上で、一旦、法人税計算をしますが、税務との差異を吸収しなければならず、「税務調整」が必要になるのです。

例えば、1年目を見ると前者が58,881千円、後者が50,000千円であり、その差が8,881千円となります。
この金額が税務調整の対象となるのです。
同様に、2年目では7,207千円、3年目では5,429千円の差異が発生することになります。
 
注:当表はASBJの設例に記載の計算式を参考に作成しておりますが、分かりやすさを重視して、計算を1年間でまとめる等、簡略化している部分が多々あります。実際の数字計算では更に細かな部分が必要になりますし、前提条件がより複雑になる場合も有ります。また、当コラムのテーマ以外の要素は全て省略しています。気になる方は当社まで、是非お気軽にお問合せ下さい。


3つの業務

お示しした具体例でもおわかりいただけるように、不動産賃貸借契約をリース対象として管理していくためには、使用権資産とリース負債を管理するために必要な固定資産管理を含めた会計プロセスや会計システムとともに、税務調整を行うためのプロセスが必要となります。
この二重管理は企業にとって大きな負担となりますが、先にもお話ししたようにコンプライアンスや社会的責任のもとでは必須の業務です。

ただ、できる限り二重管理の負担を減らさなければいけないことも企業としては当然の話です。
そこでキーとなるのは「店舗情報管理」ではないでしょうか。

下図は「店舗情報管理」が「新リース会計基準対応」業務と「税務対応」業務をつないでいることを表しています。
そして、それと同時に、二つの業務を支えていることも表しています。


新リース会計基準に対応するためには「リースを含むかどうかの判断」「使用権資産額を決定するためのリース期間の設定」「契約期間中の種々の変更」のために、物件に関する様々な情報をデータベースとして管理することが必要です。
それは、固定資産管理という範疇だけでまかなえないものも多くあります。
また、税務対応のためには不動産賃貸借契約の内容をしっかりとデータベース化しておく必要があります。

この観点から、当社のPro-Sign多店舗展開企業向けオリジナル店舗マスターは、その役割を担うことができるものであると考えます。


最後に

新リース会計基準は「オペレーティングリースであっても、また、不動産賃貸借契約であってもオンバランス処理を行う」と言う新しい定義を示しましたが、令和7年度税制改正の大綱では「オペレーティングリースは賃貸借処理であり、オフバランス処理を行う」という考えは従来のままであることが強調されました。
また、そこでは不動産賃貸借契約については明示的に示されていませんが、オペレーティングリース同様に賃貸借処理が求められることになり、新リース会計基準と税務の両者に「差異」が発生することが明らかになっています。

当コラムでは、その「差異」の具体例をもとに対応法をお伝えしましたが、多店舗展開を進めておられる企業として悩ましいのはバックエンドの業務が煩雑化することではないでしょうか。

その煩雑化を少しでも減らすために店舗に関するデータの一元管理を行うことが私どもの提案ですが、同時にそのデータをフロントエンドで利用して事業を前に進めることが重要だと考えます。
ぜひ、「Pro-Sign多店舗展開企業向けオリジナル店舗マスター」の活用をご検討ください。




おすすめの資料

人気記事ランキング

カテゴリ一覧

タグ一覧